ある日のこと、この水たまりに、別のカエルがやってきました。
それは、数年前に、この水たまりを出て行ったカエルでした。
その立派でキレイな姿を見て、 小さな水たまりに住むカエルは、
自分の体がひどく汚れていることに気づき、あわてて体を一生懸命洗いました。
ところが、またしばらくすると、なぜか体が黒く汚れてしまいます。
カエルはあせって、またゴシゴシと体を洗いました。
けれど、キレイになったのも束の間、ちょっと時間が経つと、すぐにまた体は汚れてしまいます。
そこで、そのカエルはようやく気がつきました。
自分が住んでいる水たまり自体が汚く濁っていることに。
そのため、そこにいるだけで自分の体は勝手に黒く汚れてしまうのです。
カエルはこのことをみんなに伝え、「この濁った水たまりをキレイにしよう!」と訴えました。
しかし、誰も賛同してくれません。。
それどころか、「今のままで十分居心地がいいんだから、余計なことはしないでくれ!」と、逆に文句を言われてしまう始末です。
カエルは、「どうか、この水の汚さに気づいて欲しい」と思い、諦めずに一生懸命訴え続けました。
けれど、一向にみんなの理解を得られず、とうとう「あいつは頭がおかしくなった」と後ろ指を指され、仲間外れにされてしまったのです。。。
「ここにいつまでいても、いいことはない」と考えたカエルは、勇気を振り絞ってこの水たまりを出ることにします。
どんな天敵がいるのかも分かりません。
住んでいた水たまりよりもいい場所が見つかるという確約もありません。
正直、不安と恐怖でいっぱいです。
それでも出ていくことを決意したのです。
しばらく進んでいくと、大きな水たまりを見つけました。
そこには、水が潤沢にあり、しかもキレイに透き通っています。
これまでの黒く濁った水たまりとは比べものにならない美しさです。
「ここはいい!」そう思ったカエルは、元住んでいた場所に戻り、
「素晴らしい水たまりがあるから、みんなで行こうよ!」
と必死に誘いましたが、誰ひとり信じてくれませんでした。
「また、そんなことを言って!」「どうせ嘘に決まってる!」
と、しまいには、みんなから「嘘つき」呼ばわりされてしまったのです。
一人でトボトボと大きな水たまりに戻ったカエルは、誰にも信じてもらえなかった自分の無力さを嘆きました。
その時、「どうしたんだい?」と、どこからともなく年老いたカエルが現われ、カエルに声をかけました。
カエルはことの顛末をすべて話しました。
すると、年老いたカエルはこう言ったのです。
「力のない正義は無力なんじゃよ。まずは、お前自身が力をつけることじゃ。自分に力がないと、他者に力を与えることはできないだろ?そして、お前が幸せになることじゃ。自分が幸せでないと、他者を幸せにすることなんかできないんじゃよ。他者を変えようとする前に、まずは、お前自身が変わることが大切じゃ」
その言葉を聞いて、カエルはハッとしました。
「自分が変わること・・・。僕は自分に説得する力もないのに、一生懸命、他者を変えようとしていたんだ。大切なのはまず、自分を変えることだったのだ・・・」
年老いたカエルは、最後にこう言いました。
「お前は、立派なカエルを見て、自分の汚れに気づいたんじゃろ?そのカエルは、お前に何か言葉で伝えたのか?」
「いいえ。相手を見て、僕が勝手に気づきました」
「じゃったら、お前もみんなから尊敬される立派なカエルになればいい」